新たに発足した菅義偉政権のもとで、日本の農林水産物・食品の輸出戦略がどう進むかが注目される。
農産物・食品の輸出拡大は自民党総裁選でたびたび言及するなど、菅首相にとって思い入れのある政策の一つだ。
政府は今年3月、農産物・食品の輸出額を令和12年までに5兆円と、元年実績の5倍超に引き上げる新たな目標を掲げた。
ただ、その実現可能性をめぐっては戸惑いの声も上がる。
「農林水産省として取り組むべき最重要課題だ」新政権発足から一夜明けた9月17日午前、新任の野上浩太郎農水相は記者会見で、農産物・食品の輸出拡大についてこう強調した。
それもそのはず。野上氏は就任にあたり、菅首相から農産物・食品の輸出拡大と農水分野の改革を前進させるよう指示を受けていた。
菅首相は官房長官時代、厚生労働省の食品衛生管理の国際基準HACCP(ハサップ)審査業務を農水省に一元化し、農産物・食品の輸出を迅速化。新政権が掲げている「縦割り打破」の一つだが、農水省幹部は「官房長官だった菅首相がリーダーシップを発揮したものだった」と振り返る。
直近の令和元年の農産物・食品の輸出額は前年比0.6%増の9121億円。
7年連続で過去最高となったが、政府が本来目指していた「元年に1兆円」は未達に終わった。
そうした中で政府は今年3月に閣議決定した今後10年間の農政の指針「食料・農業・農村基本計画」で、輸出額を12年までに5兆円へ引き上げる新たな目標を盛り込んだ。
「12年までに5兆円」とする新たな目標について、野上農水相は「大変意欲的で、簡単に達成できるとは考えていない」とした上で、「あらゆる施策を講じる必要がある」と話す。
品目別の輸出額の目標をみると、海外の日本食レストランで「和牛」として人気がある牛肉の輸出額は元年実績が297億円だったが、7年に1600億、12年には3600億円を目指す。
鍵を握るのは、巨大市場である中国向けの輸出の再開だ。
もともとは習近平国家主席の来日が見込まれていた今春にも再開する方向だったが、新型コロナウイルス感染拡大で先行きが不透明になっている。
コメの輸出額は元年実績が46億円だったが、7年に97億円、12年には261億円に伸ばす目標を掲げた。
長年続く消費の減少傾向に新型コロナの打撃が重なる中、農業の比重が大きい地方選出の自民党議員の間ではコメの輸出拡大への関心が高い。
ある議員は「輸出を通じて少しでも需要を獲得してほしい」と話す。
期待がかかる品目にはほかにも、リンゴやブドウといった青果物、緑茶、水産物、木材などが挙がる。
とはいえ、直近でも1兆円に届いていない輸出額を10年後までに5兆円とする新たな政府目標には、自民党内でも「本当にできるのか」などと戸惑いの声が聞かれる。
「5兆円という数字はまだ受け止め切れていないところがある」。
9月上旬に開かれた自民党の農林関連の会合で、出席議員の一人はこう吐露した。
こうした中、農水省は組織再編の一環として、農産物・食品の輸出拡大に向けて「輸出・国際局」を省内に新設する方針だ。
現在は食料産業局にある輸出関連の部署と、大臣官房にある国際部を統合してつくる。
9月末に出す3年度の組織・定員要求に盛り込む。
農産物・食品の輸出拡大が菅首相肝いりの政策とあって、年末の予算編成過程では与党議員を巻き込んだ関連予算の獲得に向けた動きが強まるのも必至だ。
他方、輸出額を増やすことだけに目を奪われるべきではなく、輸出の「質」の向上も並行して取り組まなければならない。
これまでも日本の農産物・食品の輸出は、海外から輸入した原材料に頼った加工食品が一定程度を占めると指摘されてきた。
輸出拡大が日本の農家の所得向上にどうつながるのか、その道筋を明確にしていく必要がある。(産経新聞)
中国市場に比重を置くのは自殺行為だ。
インバウンドだって期待できない。
方向変換を迫られる事になりそうだ。